コントへ捧げるラブレター

主にDVDで観たコントの感想を書きます

圧倒的な表現力と人間愛を感じました。――――東京03「自慢話の話」

第19回東京03単独公演「自己泥酔」DVDより

 

「自慢話の話」 

 

 う、美しい……。

 終わったあと、一時停止して「うおお…良い…」って呟きながら部屋のなかグルグル回っちゃった。

 

 人間観察力と構造の緻密さはいつも通り最高なんだけど、なにが美しいって、物語の持つ再帰性

 

「そんな醜い心まで曝け出せちゃう俺、どう?」

「かっこいいっす!」

 

 これは多分、自意識の克服というよりは開き直ってる。

 結局、自分に酔うことからは抜け出せない。けれども酔っている自分を引き受けようという覚悟、肯定

 

 これってもう、一つの人生観じゃん!表現(お笑い)に対する態度じゃん!結果的に、なのかもしれないけど。

 

 この短いオープニングコントでこんなに…こんなに…。

 

 ちなみに物語の持つ再帰性っていうのは角田さん(=社長)の、最初と最後の態度が一貫してるってことで、つまり開き直り。社長の貫禄だ。

 

 

ーーー

 

 私事なんだけど、このまえ兄と話してる時に、

 

僕「電車で席譲るのってさ、譲ること自体は全然良いんだけど、声かけたときに『自分はよいことしてます』って思ってるって思われるのが嫌だよね」

 

兄「だから俺は譲るとき、何も言わずに席を立つことにしてる。『あ、駅に着いたな』って感じで一旦降りて、隣の車両に乗りなおす」

 

僕「あーわかる。

……でもさ、それって『自分はよいことしてますアピールはしないけど、実はよいことしてます』っていう自己欺瞞があるんじゃないの?」

 

兄「……」

 

僕「だからといって、その欺瞞を克服して、声をかけることを選択したら、『自分はよいことしてますアピールはしないけど実はよいことしてますっていう自己満足に陥らないために、あえてよいことをしてます』みたいな循環構造が……」

 

兄「そんなこと言ったらなんにもできないじゃん!」

 

っていうことがあった。(改めて文字にすると、僕、めちゃくちゃ理屈っぽくて最悪だな!)

 僕はこのときちょっと悪意を含ませて「自己欺瞞」という言葉を使ったんだけど、そうか、自己泥酔か。

 「自己泥酔」。自己欺瞞にヒューマニティを加えてまろやかにしたような言葉ですね。良い言葉。愛がある。辞書に載れ!

 

 東京03のコントでは、人間の恥ずかしいところを主に角田さんのキャラクターによって戯画的に表現されているんだけど、全然嫌な感じはしないし、愛おしさすら感じるのは、まさにお茶目な自己泥酔なんだ。このDVDというか公演についている名前だけど、東京03のコントって自己泥酔という言葉で上手く表せる気がする。

 

ーーー

 

 脚本の筋だけをとりだして見てみると、いわゆる「あるある系」っぽい。状況自体は日常生活で「あるある」風景、「いるいる」人間。でも、一般的な「あるある系」とは決定的に違う。

 「あるある系」は、実生活で出会う嫌な人間を重ねて、その人が懲らしめられることで溜飲を下げる。いまやっているコント番組「もう少し、嫌な奴。」なんかがそう(いかにもテレビ的な企画ですね)。

 

 脚本の発想自体はこれと似ている。でももう一歩先を行くのが東京03。

 

 東京03のコントでは、実生活の人間に思いを致す余地を残さない。三人のキャラクターが強いからだと思うけど、コントの世界だけで完結しているのだ。コントの独立性。構成された世界をみるというコント自体の構図が生かされている。

 

 さらにすごいのは、角田さんのキャラクターはヘタレで威張り屋なのが多く、普通に考えたら嫌な奴なのに、全然そうは見せない表現力。同じ脚本でも、あそこまで愛嬌のあるキャラクターにできるのは角田さんだけだと思う。というか人間力かな。端的に言って「いい人」。それが、キャラクターを演じていても出ているのだ。

 

 脚本に着目すると、言いくるめられて悪口言われてビンタされて(お客さんに笑われて)、可哀そうにさえ見えてくる。さっき書いたのは身体的な表現力で、こっちは頭脳を使った表現力。

 

 嫌な奴を戯画的に描くことで「そいつが笑われている状況を作り出す」という、まあ言ってしまえば俗悪な笑いから脱却して、

「笑える状況にそいつを放り込んで丸ごと愛してやる」

みたいな気概が見られる。圧倒的な人間愛。これって笑いというよりも文学じゃん。否定的な状況をフィクションとして描くことそれ自体が、似たような現実を肯定するという。お笑い以前に、それって表現者として素晴らしいことなんですよね。

 

 

ーーー 

 

「エリアリーダー」についても書くつもりが、めちゃめちゃ語っちゃってもう0時を過ぎてしまった。うーん。いくらでも語れるな。



f:id:togetoge_koneko:20190606004805j:plain

(筆者撮影)



第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [DVD]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [DVD]